まちづくりに使える「パーソントリップ調査データ」とは?

まちづくりでのデータ活用を検討していると、パーソントリップ調査というデータを耳にすることがあるかもしれません。

パーソントリップ調査は行政が行う統計調査で、行政の都市計画や交通施策に活用されることが多いデータです。それだけではなく、環境分野や防災分野、福祉分野等でも活用することができますし、商業や観光などの民間のマーケティングにも活用可能なデータです。

この記事では、名前は聞いたことはあるけどどんなデータかよくわからない、結局何ができるかわからないという方を対象に、パーソントリップ調査データの概要を、以下の観点から説明します。

  • パーソントリップ調査では、どんなデータが取得されているのか?
  • どんな分析に活用できるのか?
  • 実際にデータを活用したい場合にはどうすればよいのか?

パーソントリップ調査データとは?

パーソントリップ調査(PT調査)は「一人一人の一日の移動を把握する調査」です。

全国の各都市圏で、行政が定期的に行っている統計調査で、東京都市圏、近畿圏(京阪神都市圏)、中京都市圏では、集計データが公表されているため、誰でもデータを使うことができます。

パーソントリップ調査では「どこからどこへ」、「何の目的で」、「何の交通手段で」、「何時ごろ」に移動したかを回答してもらっているため、調査結果を集計すると、例えば以下のようなことがわかります。

  • どこに人が集まっているのか
  • 集まっている人はどのような目的でどのような人が集まっているのか
  • どのような交通手段を利用している人が多いのか

では、これらのことがわかると、どんなことに活用できるのでしょうか?

パーソントリップ調査データの活用イメージ

パーソントリップ調査は行政が行う調査のため、行政の都市計画や交通計画に活用されることが多いです。

また、それだけでなく、地域に集まっている人の特性がわかるため、商業や観光目的でのマーケティングにも活用することができます。

都市計画や交通施策での活用

都市計画マスタープランや立地適正化計画、地域公共交通などを検討する際には、拠点(人が集まる場所)や居住を誘導する地域、それらをつなぐ交通ネットワークを考える必要があります。

パーソントリップ調査では、目的別に現在どこに人が集まっているかを把握することができます(下図は通勤・通学目的の例)。これらの分析を活用することで、将来どこに拠点を設定するか、各拠点にどのような機能を配置していくか、を検討する基礎材料とすることができます。

また、特定の拠点に集まる人の居住地(後背圏)を分析することもできるため、将来的にどのエリアを居住誘導する地域とするか、どの方面の公共交通を強化していくかを考える基礎的な材料ともなります。

パーソントリップ調査では、どのような属性か(年齢や性別、世帯構成、自動車運転免許の有無など)を調査しているため、属性別の利用交通手段の傾向や公共交通利用者の属性の内訳などを分析することができます。

例えば、下図では世帯類型毎の交通手段の利用割合(交通手段分担率)を分析しており、高齢単身世帯や高齢夫婦世帯はバスの利用率が高いことがわかります。

その地域で、どのような人が公共交通を利用しているのか、どのような人が公共交通を必要としているのかを把握することで、公共交通の利用促進を行う際のターゲットの明確化にも活用することができます。

商業地・観光地のマーケティングでの活用

特定の地域に着目することで、どんな人がどんな目的できているのか、どこから来ているのか等を把握することができるため、施策のターゲットやエリアのマーケティング戦略の立案にも活用することができます。

例えば、下図では丸の内エリアにおいて、私事目的で滞在する人数を性別年齢別で分析しています。平成20年に着目すると、男性と比較して女性が多く、特に19時以降の夜の時間帯は25-39歳の女性が多いことが確認できます。

このように、来訪者の特性を把握することで、誰をターゲットにしたマーケティングを行うべきなのかを考える基礎的な材料として活用することができます。

パーソントリップ調査データの内容

ここではパーソントリップ調査が、どのように取得されたどんなデータなのか、もう少し詳しく解説していきます。

調査内容

パーソントリップ調査では「一人一人の一日の移動」を調査しています。

移動状況に関しては、どこからどこへ(出発地・到着地)、何時から何時に(出発時刻・到着時刻)、何の目的で、何の交通手段で移動をしているかを主に聞いています。

また、各個人の居住地や性別、年齢、職業、勤務先・通学先、自動車の保有台数、運転免許の保有状況等も調査しており、どんな人が移動しているかを把握することもできます。

都市圏によって調査内容には若干の違いがありますが、主な調査内容は以下のようになっています。

調査方法

パーソントリップ調査では、郵送で調査の案内を配布し、紙の調査票もしくはWeb(スマートフォン、PC)で回答してもらうのが一般的な調査方法となっています。

調査の特徴としては、以下があげられます。

  • 大勢の人に対して調査を行っていること
  • 調査対象者をランダム(無作為)に抽出して調査を行っていること

大規模な調査

パーソントリップ調査では、地域毎の特性を把握できるようにするため、大規模な調査となっています。

例えば、令和3年に実施された近畿圏パーソントリップ調査では、調査地域に住んでいる約936万世帯のうち約44万世帯が調査対象に、平成30年に実施された東京都市圏パーソントリップ調査では、約1800万世帯のうち約63万世帯が調査対象になっています。

調査回答者数は調査対象者の2~3割程度であり、例えば東京都市圏では、約16万世帯の約31万人から回答が得られています。

国勢調査等の悉皆調査(全員が対象となる調査)を除くと、統計調査の中でもかなり大規模な調査となっています。

無作為な調査

パーソントリップ調査では、調査地域に住んでいる人から無作為(ランダム)に調査対象者を選んでいいます。

そのため、都心に住んでいる人も郊外に住んでいる人も、高齢者も若者も満遍なくデータが取られているため、移動の実態を偏りなく把握することができるデータとなっています。(ただし、一定程度の誤差を含んでいる点には注意する必要があります)

データの特徴(強みと弱み)

最近は、人の移動が把握できるデータとして、スマートフォンから取得された人流ビッグデータの活用が進んでいます。

それらと比較してパーソントリップ調査データは、どのような特徴があるのでしょうか。

強み:色々な属性や移動の目的、移動の交通手段が把握できている

性別や年齢だけでなく、世帯構成や運転免許の保有状況など、個人の属性を詳細に把握しており、また移動の目的や交通手段を把握しています。

そのため各種交通施策の検討に活用しやすいのはもちろんのこと、施策やマーケティングのターゲットを検討する時にも、誰がどんな目的で来訪しているかが把握できるため、より解像度をあげた施策の検討に活用することができます。

人流ビッグデータでも、性別や年齢などは把握できるケースも多いですが、他の属性は把握できない場合が多いです。また、目的や交通手段を推定できる可能性はありますが、あくまでの推定されたデータという扱いになります。

強み:データの精度が説明しやすい

調査内容に記載したように、パーソントリップ調査では無作為(ランダム)に大規模な調査をしています。そのため、集計値自体に誤差は含むものの、どの程度の誤差があるのかを統計的に説明することができます

そのため、将来の交通量をより正確に予測したい場合などの基礎データとして、交通計画の検討に活用されてきた経緯があります。

弱み:最新時点の人の動きがわからない

パーソントリップ調査データは、10年に一度程度の頻度で行われるのが一般的です。また、地域によってはさらに間隔が空いていたり、近年は実施されていないケースもあります。

都市や交通の施策を検討するにも、マーケティングに活用するにも、なるべく最新のデータが欲しいものです。

人流ビッグデータでは24時間365日データが取得され続けているため、最新状況の把握が容易であるのと比べると、パーソントリップ調査は最新の人の動きを把握するには課題があると言えます。

弱み:細かい地域の動きが把握しづらい

パーソントリップ調査はゾーンという地域単位の集計データで提供されていることが多く、詳細な街区単位等での分析はできないケースが多いです。また詳細な地域単位でデータを見られる場合であっても、サンプル数が少なくなり誤差が大きくなってしまいます。

一方で、人流ビッグデータでは、データの種類によりますが、詳細な空間解像度の分析が行える場合があります。

例えば、携帯電話基地局などの大量のサンプルが取得されている人流ビッグデータでは、500mメッシュや250mメッシュ単位での分析も可能なケースがあります。

データの特徴のまとめ

現時点では、パーソントリップ調査にも人流ビッグデータにも、お互い強みと弱みがあり、どちらが明確に優れているということはありません

ある地域の最新時点の人の動きをモニタリングしたい場合には、人流ビッグデータを活用し、一方でその地域に来ている人の目的や属性はパーソントリップ調査で把握するなど、析内容に応じて使い分けたり、組み合わせて使っていくことが有効です。

パーソントリップ調査は、地域によってはデータ公表されているため、まずはデータをみてみて概要を把握するのに使う、ということも有効です。

パーソントリップ調査データの使い方

特定の都市や地域でパーソントリップ調査が実施されているかどうかは、国土交通省のホームページから確認できます。

都市交通調査・都市計画調査:パーソントリップ調査 - 国土交通省
国土交通省のウェブサイトです。政策、報道発表資料、統計情報、各種申請手続きに関する情報などを掲載しています。

データに関しては、東京都市圏、近畿圏(京阪神都市圏)、中京都市圏では公表されています。そのほかの都市圏では、必ずしも公表されているとは限らないため、各都市圏のホームページを検索して調べてください。

なお、東京都市圏、近畿圏(京阪神都市圏)、中京都市圏では以下からデータを見ることができます。

データ提供 | 東京都市圏交通計画協議会
東京都市圏パーソントリップ調査
京阪神都市圏交通計画協議会
中京都市圏総合都市交通計画協議会

まとめ

この記事では、パーソントリップ調査の概要について紹介しました。

分析対象都市でデータが整備されている場合には、ぜひ一度データを分析してまちづくりに活用してみてください。

活用事例やデータの使い方の詳細に関しては、今後、別の記事で紹介していきたいと思います。

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