まちづくりに活用可能な人の動きのビッグデータ

近年、人の動きを捉えるビッグデータが登場してきており、携帯電話基地局やスマートフォンのGPS、Wi-Fi、Bluetooth機能を活用したものや、光学レーザーやカメラ画像を活用した人流観測技術も発展してきています。

今回の記事では、様々な人の動きのビッグデータの特徴について紹介していきたいと思います。

人の動きのビッグデータの種類

人の動きのデータの種類

人の動きを把握する調査として、古くからパーソントリップ調査が行われてきました。

パーソントリップ調査とは「一人一人の一日の移動を把握する調査」で、一日の移動とセットで移動の目的や交通手段、各個人の属性(性別、年齢、就業状態、世帯構成など)を把握することで、都市や交通の施策検討に活用されてきました。一方で、調査コストがかかる点や10年に1回程度の調査、サンプル数が限定的なで詳細な地域単位での分析がしづらいといった点が活用上の課題としてあげられています。(まちづくりに使える「パーソントリップ調査データ」とは?

一方で、近年は人の動きを捉えるビッグデータが登場してきており、携帯電話基地局やスマートフォンのGPS、Wi-Fi、Bluetooth機能を活用したものや、光学レーザーやカメラ画像を活用した人流観測技術も発展してきています。

本記事では、人の動きを捉えるビッグデータのうち、携帯電話基地局、GPS、Wi-Fi・BLE、レーザースキャナ・LiDAR、カメラ画像の5つに関して、その概要を紹介します。

ビッグデータを選ぶときの留意点

人の動きを捉えるビッグデータは、パーソントリップ調査等の既存の統計データ等と比較して、大量のサンプルが取得できる、24時間365日取得できる、調査を行わなくてもデータが活用できる等の特徴があります。

ただし、データの精度や本来おこないたい分析ができるデータなのか等をよく確認する必要があります。

具体的には以下のような点に留意して、活用するデータを選ぶとよいでしょう。

  • 対象サンプル:人数はどれくらいか、特定のアプリを利用している人等の偏りがないか
  • データの取得間隔:数秒~数分など、OSやアプリによって取得間隔が違う場合もある、分析したい解像度でデータが取得されているか
  • データの解像度:携帯電話基地局であれば数百m~、GPSは緯度経度でわかるが誤差を含む、分析したい解像度でデータが取得されているか
  • どのような属性情報(性別、年齢ほか)が活用できるか:推計値としてどのような情報(交通手段、目的など)が活用できるか
  • どのような形式でデータが提供されるか:個人情報の関係で一人一人の動きがわかるデータ(非集計データ)は提供されない場合が多い、集計データか非集計データのどちらで提供されるか
  • 秘匿の方法:集計値を秘匿する際に、どのような条件(○人以下を秘匿にする等)でどのような処理を行っているのか
  • 推計の方法:滞在場所、交通手段などは軌跡情報から推計しており、どのようなロジックで推計しているか、推計ロジックの精度は十分であるか

人の動きに関する各データの概要

携帯電話基地局

データの特徴

携帯電話基地局のデータとは、携帯電話が通信のために基地局と交信している履歴情報のデータです。

交信の履歴から、いつ・どの基地局の周辺にいたかということがわかるため、人の動きを推計することで滞留人口やOD量を把握することができます。

携帯電話を保有している人であればデータが取得できているためサンプル数が多い(≒秘匿が発生しづらい)という特徴があります。例えば、ドコモのモバイル空間統計は8,000万台以上の携帯電話のデータとなっています。

データの空間解像度は基地局の密度に依存するため、都市部では数百m程度、郊外部ではそれよりも粗い解像度になると言われています。

性年齢、居住地などの一部属性情報は付与されているほか、交通手段や目的の推計を行っているものもあります。

提供されているデータの例

ドコモのモバイル空間統計ソフトバンクの全国うごき統計などが携帯電話基地局データに該当します。

GPS

データの特徴

スマートフォンのGPS機能を用いて位置情報を把握するデータです。

GPS機能により緯度経度単位でデータは取得されているため、数m~数十m程度の誤差は含むものの詳細な空間解像度での分析が行いやすいです。

一方で、GPS機能を活用しているため、建物の中の動きや地下の動きを把握することは難しいという特徴があります。

特定のアプリを利用し、位置情報の取得の許諾をした人のみのデータとなるため、携帯電話基地局データと比較するとサンプル数は少ない傾向にあります。

提供されているデータの例

2023年1月現在、多数の会社がGPSに関連したデータや分析の提供を行っています。

会社によって、以下のような点がそれぞれ異なるので、分析したい内容や価格感に合わせて、適切に選ぶことが必要になります。

  • データの対象者数(全国数万~数千万)
  • 提供されるデータの時間解像度(数秒~数分など)
  • 提供されるデータの空間解像度(緯度経度単位~メッシュ単位など)
  • 集計したデータとして提供されるか、非集計のデータ(一人一人の動きがわかるデータ)として提供されるか
  • 個人を識別できないようにするための秘匿化・抽象化の処理方法
  • GPS位置情報から移動や滞在をどのように判定しているか
  • どのような属性情報が活用できるか、推計値としてどのような情報(交通手段、目的など)が活用できるか

例えば、Agoopの流動人口データでは、スマホアプリから取得したGPSの位置情報を秘匿化・統計加工し、メッシュ単位での集計値のほか、一人一人のポイントデータの提供も行っています。

そのほか、GEOTRAのアクティビティデータKDDIのLocation Dataゼンリンデータコムの混雑統計Ⓡブログウォッチャーレイ・フロンティアヤフーのDS.INSIGHTX-Locationsの人流アナリティクスunerryのリアル行動データ可視化・分析など、多数のデータや分析サービスが提供されています。

Wi-Fi・BLE(Bluetooth)

スマートフォン等から発信される信号(Wi-FiやBlutooth等)をWi-FiアクセスポイントやBLEビーコン等の機器が受信することで、人の動きを把握することができます。

ある時間に、ある機器の周辺に滞在する人数がわかるほか、スマートフォン等のMACアドレスを利用することで、個々の人の動きを追うことができます。

Wi-FiやBluetooth機能をオンにしているスマホのみを対象にしているため、必ずしも全数が正確にわかるわけではありません。

GPSとは異なり、機器さえ設置されていれば、建物内や地下であってもデータを取得することができるのが特徴です。あくまで取得できるのは機器の位置情報であり、スマホの正確な位置がわかるわけではありません。ただし、機器によっては電波強度を捉えることができ、機器が密に設置している場所では複数の機器の電波強度を組み合わせて三角測量の要領で、位置を推定することもできます。

検知できる範囲は、機器の性能や設置場所等の状況によりますが、数m~100m程度まで検知可能です。

MACアドレスを用いて、個々の人の動きを追うことができるのが特徴ですが、近年MACアドレスはスマホ側でランダム化が行われるようになってきており、個々の追跡は難しくなってきています。ランダム化の間隔は10分程度とも言われており、特に広範囲の動きの追跡が難しくなってきているようです。

Wi-FiやBluetoothのデータは、自ら機器を用意・設置してデータ取得をするほか、事業者の保有する機器を設置する方法(例えばAdInteなど)、事業者から設置ずみの機器から収集されたデータを事業者から入手する方法(例えば国際航業Wi-Fi人口統計データなど)などもあります。

レーザースキャナ・LiDAR

レーザースキャナ・LiDARは、照射したレーザーの反射光を計測することで、人やモノの動きを把握することができる技術です。

機器を設置する必要はありますが、Wi-FiやBluetoothのデータと異なり、歩行者数の全数を把握することが可能です。ただし、混雑が予想される場所、幅員が広く人の重なりが多い歩道などでは、歩行者が正確にカウントできない可能性があり、建物の出入り口などの通行幅が限定され人の重なりが少ない場所での計測に特に適しています。

また、性別や年齢といった属性は把握できない点にも留意が必要です。

センサーの前を通過する人数のカウントに用いることができるほか、対象物までの距離を測位することもできるため、複数機器を設置することで一定の範囲内の人の移動軌跡を捉えることもできます。

カメラ画像

カメラ画像から識別処理等を行うことにより、歩行者等を計測する手法です。

画像内に映った範囲内の人の移動軌跡を捉えることができるほか、画像内の特定の断面を通過した人の人数を数えることもできます。また、複数地点の画像内の人物を照合することで地点間のODを把握することも技術的には可能です。

レーザースキャナと同様に、歩行者数の全数を把握することが可能です。ただし、歩行者の重なりが多い場合、朝夕の日差しがある場合、ガラスの反射がある場合、雨天などの照度が低く暗い場合などは画像認識が上手く機能せずに、動きを正確に捉えることが難しい場合もあります。

また、映像データ自体や個人が識別できるかたちで情報を残す場合には、個人情報の取り扱いに留意する必要があります。

おわりに

この記事では、ビッグデータを中心とした人の動きデータの特徴を紹介しました。

ビッグデータは日々進歩していますので、最新の状況にキャッチアップしつつ、是非活用してみてください。

近年、ビッグデータや既存の統計データを組み合わせて人の動きのデータを生成する取り組みが、海外を中心に出てきています。今後それらの動きも紹介したいと思います。

参考文献

記事内の各リンクのほかに以下を参考にしました。

総合都市交通体系調査におけるビッグデータ活用の手引き

人流データ利活用の手引き

まちの活性化を測る歩行者量調査のガイドライン

コメント

タイトルとURLをコピーしました